業務の所要時間には、人が処理している実作業時間と、承認、引き継ぎ、返答などを待つ時間が混在する。 どちらが所要時間を支配しているかによって、効く改善策は変わる。
待ち時間が支配的な業務では、個々の作業を速くしても全体はほとんど短くならない。 完了まで22日かかる一方で実作業が17分しかない業務なら、実作業を半減しても短縮できるのは約8分である。 この場合は、作業の自動化よりも、引き継ぎや承認そのものをなくす業務再設計が効く。
しかし、実作業時間が大きな割合を占める業務では、同じ結論にならない。 看護師による投薬、処置、清潔援助、体位変換、観察、患者との対話には、行為そのものに時間が必要である。 待ちをなくしても必要なケア時間は残るため、道具による支援、役割分担、人員配置も処理能力を左右する。
看護業務も直接ケアだけで構成されているわけではない。 36病棟の看護師767人を対象にした時間動作研究では、看護実践時間のうち記録が35.3%、ケア調整が20.6%、投薬が17.2%、患者ケア活動が19.3%を占めた。 記録の重複、情報探索、連絡、物品を探す移動には、待ち時間が支配的な業務と同じ改善余地がある。
看護業務への介入は、時間を短縮するだけでなく、短縮してよい仕事と時間を確保すべき仕事を分けて設計する。
削減する周辺業務:重複入力、情報や物品の探索、転記、日程調整、不要な連絡をなくす。
支援する臨床判断:申し送りの整理、患者情報の要約、異常候補の検出、記録案の作成によって判断材料を揃えるが、結果の確認と決定は看護師が担う。
確保する直接ケア:処置、観察、清潔援助、移動介助、患者教育、患者との対話に使える時間を増やす。
この三区分では、AIによって周辺業務を減らすことを目的にせず、その結果として直接ケアを確保できたかまでを改善の対象にする。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3037121/
したがって、AI導入の成否を「一件の記録が何分短くなったか」だけで測ると、改善先を誤る。 短縮した時間を人員削減や追加業務で埋めれば、患者へ提供するケアは増えない。 看護業務なら、患者に接する時間や、時間不足で実施できなかったケアがどう変化したかまで測る必要がある。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23898215/
業務改善は「作業の自動化」と「流れの再設計」のどちらか一方を選ぶことではない。 所要時間を分解し、実作業、待ち、調整、手戻りのうち、現在の処理能力を制約している部分へ手を入れる。 人間の判断を残す境界は、AIエージェントへの委任は検証可能性から分解するという考え方ともつながる。